活動レポート
地図の聖地、千葉の佐原に行ってきた!
2014年04月01日
平成の大合併によって「香取市」になった旧佐原市。この佐原(さわら)の名称は町名として残っており、かの伊能忠敬が養子婿としてこの地に入ったことによって、日本の歴史上重要な場所のひとつとなった。手書き地図推進委員会としては、この“聖地”をスルーするわけにはいかない! ということで、行ってきましたよ、佐原に!
▼町の歴史談義がそのまま地図になった「佐原まち歩きマップ」
圧倒的な熱い語り。取材のほとんどが佐原の歴史談義となり、途中何度も「手書き地図の取材なのに、歴史の話ばかりでごめんなさいね~」と気配りをいただきながらも、またすぐに「で、この祭はね…」と話が戻ってしまう越川悦子さん。
結論から言えば、手書き地図とは「何を強調したいのか?」ということ。だから、地図の前にまず「町を知る」ことが大切だということを、何度もおっしゃっていたのが印象的だった。
古い建物とか歴史的なものとかがやけに大きく描かれてますね、というこちらのツッコミに対しても、「だってそこを目立たせたいんだもの~!」と言って明るく笑い飛ばす越川さん。町の中心を流れる利根川水系の一級河川「小野川」沿いに立ち並ぶ古く情緒的な建物が、この町の象徴だということが一目でわかる。白黒の地図でありながら、川だけに鮮やかな青を手書きで色づけされているところも、見る者の視線を奪うひと工夫になっている。
江戸以上に江戸らしかったという佐原は、江戸優り(えどまさり)と称された歴史深い水郷の町。その町並みと文化遺産を後世に伝えたいと精力的に活動されている。教員生活を終えた今は、佐原町並み交流館を拠点として町のガイドを行いながら、その活動のひとつとして、「佐原まち歩きマップ」という手書きの地図を作り、外から来た人への町の理解に役立てている。まさしく「この人に、この地図あり」である。
※白黒版は佐原町並み交流館で無料配布中。カラー版(有料)は水郷佐原観光協会で入手可能。
▼地図を楽しく見せるアイデア! 「レイヤリング・クリアファイル」
縮尺の正しさは気にしないで、見て欲しい部分だけを極端に大きく描く。すべての情報を公平で網羅的にする必要がないのも、手書き地図のいいところと、越川さん。これまで取材してきた日本各地の手書き地図の作者も、みな一様に同じことを口にしている。
載せたいことだけ載せて、この地図で伝えたいことをハッキリさせる。他に伝えたいことがあれば、別の地図をまた作る。こうすることで、テーマ別に特徴が明確になった手書き地図に仕上がるわけだ。加えて、こんな秀逸な見せ方のアイデアを発見!
クリアファイルには、現在の町の道路と信号があらかじめプリントされている。そこに、川と街道に沿った「佐原の町並み」、「指定文化財」、「土産・食事・宿泊」のそれぞれのイラストマップを差し込む。すると、江戸の情緒ある町の様子と、平成の佐原の様子が見事に重なるのだ。このクリアファイルは、越川さんが所属するNPO法人「小野川と佐原の町並みを考える会」が作っているもの。かなりの反響を呼んだそうだが、現在は在庫がないとのこと・・・。復活希望!
▼誰もが知ってる「伊能忠敬」と、地元で語られる「ちゅうけいさん」
ところで、地図と言えばこのお方。そう、伊能忠敬大先生。地元で「ちゅうけいさん」という愛称で親しまれる伊能忠敬は、日本で初めて測量による日本地図『大日本沿海輿地全図』を完成させたお方。歴史の授業では必ず習う人物だ。ところが、地図を作ったという事実を除くと、意外と知られていない。
もともと千葉九十九里の近くで生まれた忠敬だが、人生の紆余曲折を経てここ佐原と縁を結ぶ。
「この地で豪商として名高かった伊能家に婿養子として入たのですが、多大な努力によって佐原でも評判の名主になりました。その後、50歳になってから江戸に出て、暦学や天文について勉強を始めます」とは、伊能忠敬記念館の酒井一輔さん。いわば“第二の人生”になってから始めた暦や天文の中に測量を学び、歴史に残る大偉業を成し遂げたことになる。
「全国を歩いて測量するほどだから健康で健脚だというイメージがあるようですが、実は身体は強い方ではなかった」という。歯が抜けて大好きな漬物を食べるにも苦労したと手紙に残しているようで、人間味の溢れる魅力的な人物だったのだろう。丈夫で精密機械のような頭脳を持っているといった先入観はあっさり覆され、さらに酒井さん曰く「実は地元の測量はやってないんですよね(笑)」
地球の大きさを知りたいという好奇心から、美しい日本の姿を地図として残すに至った「ちゅうけいさん」。香取市の教育委員会が運営する伊能忠敬記念館には、重要文化財から国宝まで2345点に及ぶ絵図・器具等が展示されている。はじめて訪れた佐原を楽しくガイドしてくれた「佐原まち歩きマップ」を片手に、日が暮れるまで“聖地”を楽しんだ一日となった。
取材・文・写真 大内 征(手書き地図推進委員会 研究員)